夜と霧(新版)

ノンフィクション

 太平洋戦争からどれだけの時が流れただろう。日本にも悲惨な状況はかなり語り継がれている。シベリアへ抑留された人たちもいる。ナチスにより一つの人種を絶滅させようという大虐殺が行われた。事実として文字で書いても、現実に起こったことだとは想像しがたい。

 アウシュビッツにおいて、いつガス室に送られるのか、いつ餓死するのか…そういう恐怖の中で、それでも生きるということについて見方を変え、考え方を変えながら生き抜いた人達がいる。日々続く強制労働の中に、それでも希望を持つこと…希望を持ったとしても叶うことを夢見ることすら困難な状況で、悪夢を見ながらもだえ苦しむ人を起こして現実に引き戻すことの方が悲劇だと思わせる状況。

 実際にその体験をしたユダヤ人精神家医師の自己と集団分析である。感情をできるだけ切り離し冷静に分析しようとする中に、その心の強さと感情を織り交ぜたときに分析などできようもないことを知る。

 幸せな家庭は突然に理由なく(あるとすれば自分がユダヤ人、家族がユダヤ人であったということ)、強制収容所に送られ、それでも家族との再会を夢見て耐え忍んだ結果は自分だけが生き残る…しかし、彼は後世に世界に自らの体験を感情的な物語ではなく、精神科医として残したことは大きな功績だと言える。

 この世には二つの人間の種族がいる、いや、二つの種族しかいない、まともな人間とまともではない人間と…。どんな集団の中にも、悪の集団であれ善の集団であれ、この二つの人間がいて、時に希望を与え、時に悲劇をつくる…。今もなお、いろいろな場所で同様に発見されるのはこの二つの人間である。

 感情的に描かれていたらもっと読みやすくもっと心を揺さぶられ、ある意味読み進めるのが難しい内容だったと思う。分析的に描かれた内容は無着色の描写であり、場面の描写であり、言葉の言い回しなので、平坦な場所に二次元的な描写をされ、淡々と読み進めることができた。そして、最後まで読んで、振り返って全体を考えたときに多くのことを感じることができるように思う。

 当然、繰り返されてはいけない。しかし、どんな世界であれ、希望を作り出し生き延びる力を人間は持つ。

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