あの夏の正解 (早見和真)

ノンフィクション

 「2020年5月20日、全国高等学校野球選手権大会の中止が決定した。」という一文から始まるノンフィクションの取材レポートである。著者は小説家であり、元高校球児。甲子園がコロナのために中止になったのだ。その決定を、甲子園の常連校である愛媛県の済美高校と石川県の星稜高校の監督や選手はどう受け止めたのか…。

 コロナって何だったんだろうと、振り返ってみて考えると、専門家によっても、政治家によってもいろいろな思いがあるだろう。そういう話は横において、甲子園は中止になったのだ。もちろん高校野球だけではなく、多くの種目で全国大会どころか地区予選すらも中止になり、代わりの試合すら行われなかった種目もあるのだろう。しかし、高校球児といえば甲子園であり、毎年の夏にいろいろなドラマを見せてくれる高校生の青春の代名詞の一つである。そんな甲子園に出場したくて親元を離れて強豪校に通った生徒もいただろうに、その目標となる大会自体が中止となったのだ。

 この本を読んで思うことは、高校生って大人だなぁと感じる。ちゃんと、受け入れて自分たちの中で折り合いをつけようとする力がある。むしろ監督の方が、迷い考えている姿が伝わってくる内容であった。「甲子園へ行こう」の一言でチームをまとめ、つらい練習の中で鼓舞することができたのに、その甲子園が目の前から無くなったのである。こうやって考えてみると、コロナでいろいろな試合が中止になったのを、他人事としてとらえていた自分が浮き彫りになる。高校時代に打ち込んだもの、目指したものが一つのウイルスの登場で大会すらなくなったとしたら…そうやって考えてみると、今の自分がいなかったのかもしれないとも感じるほどだ。そして、実際に多くの種目で大会がないということが現実となった。

 今回取り上げられたのは、甲子園常連校の強豪校であるが、そうでない学校の生徒たちだって同様に同じ思いを味わったのだろう。あっさりと引退した高校生もいただろうし、それでも最後まで野球を楽しみたいという高校生もいたのだろう。強豪校の中でインタビューを受けた生徒と同じ思いを大なり小なり感じながら全ての高校生が、コロナの時代を乗り越えたのだろう。今回の取材の中で、「甲子園がないという貴重な経験をさせてもらった」というような言葉が言える高校生がいるわけだから驚く。一流の高校球児は精神的にも一流なのだと思う。

 高校生の取材をしながら、著者自身が経験してきた自らの高校野球への考え方が変化していくところがもう一つの物語となっている本であった。

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