たった、それだけ(宮下奈都)

小説

 とっても薄い文庫本の一冊。なんで選んだかも覚えてないけど、表紙のイメージか、題名か、それでも買っておいてあったので、順番が来て読むことになった。1~6話の短編が一つになって物語をつくる。そして、その一つ一つの話は主人公が違う。一つの大きな流れをいろいろな視点から全く違う題材として一つのテーマで書かれているのだ。

 一つ一つは、そんなことあるのだろうか?なんでそうなる?という題材であり、物語である。読んでいくと怖いという感じがする。なんというか大げさな感じがするのだ。でも、そこにはちゃんと理由がある。私は読み方が浅いのか、最後までそこに気づくことができず、解説を読んで一つの物語としてのまとまりに気が付いて、スッキリするとともに、急に怖いなという思いが、すーーーっとなくなり沁み込むように物語全体が自分の中で腑に落ちる。本当なら解説を読まなくてもそれを感じなければいけないのだろうが、私は教えてもらって気づいた。情けない話である。

 「たった、それだけ」読み終わって本を閉じた時に、その題名の意味が分かる。そして、確かにあれだけ話を膨らませて多くして、「それだけ」なのだ。でも、多くを語りすぎない「それだけ」が丁度いい。登場人物一人一人の言動が「逃げる」というキーワードでつながっている。逃げることに対する評価はそれぞれだということが6話で語られているということになるのだろう。まぁ、私は解説を読んでそうだったのかと思ったわけだが…。こんなに解説を読んでおいてよかったと思うことはない。(笑)

 やっぱり小説は面白いなぁ。そして、ちょっと出かける時にカバンに入っているだけで、その空間や時間の使い方が濃密になる。「たった、それだけ」ではあるが、考え方や見え方は変わるのだ。

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