千里眼の復活

小説

 いつだろうか、松岡圭祐の千里眼シリーズを知り合いに薦めたことがある。何を読もうか迷っているなら読んでみると面白いと思う…。とでも言ったのだろうか。当の本人は忘れていた。ところが、ある時、「薦めてもらった千里眼に新しいのが出たんです」という言葉をかけられた。こうやって本がつなぐ関係があるのかと嬉しく思った。そして、「買ったから貸しますよ」とこれまた嬉しい言葉をいただく。

 他の本を読んでいながら並行して開いた千里眼。前作のほとんどのストーリは忘れていたものの、読むうちになんとなくおぼろげに思い出す。そして、しっかりストーリーにのめり込んでいく。

 前シリーズの内容は、表情から心理を見透かすというもので、いろいろな事件を解決していく。その、心理と表情についての解説が詳しく書かれているところに、現実の世界を重ね合わせてこんなことができるのかと、表情と心理にかんする本を何冊か読んだのを思い出す。

 今回の物語では、その部分が薄かった。そして、表情筋を変えないことで、心理を読ませないというトレーニングを積んだ登場人物が何人も登場する。こうなると千里眼も使えないとなるので、物語が別の方向へ行ってしまう。そして、ほとんど戦争のようなテロ行為がおこり、前は現実の世界と行き来しながら読んでいた記憶だけが残っている自分としては少し残念な思いがした。

 そう考えながら読み進めていたものの、いつの間にかしっかりとストーリーの展開にハラハラして読んでしまった。非現実的な内容だと思って物語を楽しんだが、こういう戦闘が実際にはどこかで起きている。平和ボケしているのは自分なのかもしれない。そして、自衛隊という組織を通して描写される大きな組織、階級社会の時代錯誤。こういう組織ではこれからの時代を守っていくことができないのではないか。しかし、平和だからこそこういう巨大組織が成り立っているようにも感じる。

 巨大組織が細分化され、縦の組織が横に繋がる組織に変わってきている。そんなふうにやっぱり現実と重ね合わせながら読むことができるのが物語の楽しい部分である。このシリーズ、これからも注目だな。

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