ただいま神様当番 (青山美智子)

小説

 ちょっと出かける時に、一冊の小説を持っていくだけで、電車の中や待ち時間が読書タイムに変わり、時間を有意義に過ごせるようになる。文庫本がもってこいである。でも、小説を選ぶというのは、なかなか難しい。そんな時は、誰かが読んでいる小説を「何読んでるの?」と聞いてみるといいのかもしれない。そうすることが、新しいジャンルや出会ったことのない著者の作品を読むきっかけとなる。

 題名だけを読むと、現実離れしたすごーーいフィクションを思い浮かべる。同じバス停を同じ時間に使う共通点はそれだけの全く関係のない人たちが、順番に神様当番になっていくのだ。落とし物をちょっと拝借してしまった人の腕に、突然、「神様当番」という文字が現れて、神様が登場するというのは、こりゃすごいフィクションだなぁと思いながら、読み始めるわけだが…。その神様というのが、神秘的な力を使ってその人の人生をガラリと変えていく…となると、どこまでも夢の物語になってしまう。ところがだ…この物語は、神様がきっかけではあるものの、割と現実的な部分でほっこりとするようなショートストーリが積み重ねられていくので、読みやすい。そして、なんとなく自分と重ねてみたり、ぷすっと笑ってしまったり…一つ一つの物語がしっくりと沁み込んでくるのだ。

 割と短めの短編が積み重なって、一つの物語になるというスタイルの小説は結構読みやすくて好きだ。そして、ちょっとしたきっかけを作ることが、その後をガラリと(というほどのことでもないが)変えてくれるというのが面白い。考えてみると「何読んでるの?」というその一言が、この小説との出会いになったわけだ。その一言がこの読み終えた時に爽やかな感じ、「あぁ、ちょっとしたことで人生は変わるし、自分の周りにそんなきっかけがあっても自分が気付くかどうか、もっと言えば気づいていても行動できるかどうかなんだなぁ」と気づいた自分に出会わせてくれたのだ。まさに、小説の中にもう一つ付け加えたいようなエピソードとなったように思う。

 どこかにいそうな登場人物、自分とは違うけど、経験したことのあるようなエピソード、そういうものが巧みに使われていて、まんまと私はその親近感にはまってしまいました。皆さんも、ちょっと凹んだときなんかに、周りの見方を変えるきっかけとして、この「神様当番」してみませんか?

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