正しいパンツのたたみ方 -新しい家庭科勉強法 (南野忠晴)

家庭科の免許をとるために

 なんだこの題名は??そう思って手に取った本ではありません。家庭科の教員免許を取得しようとしている私が、教科教育法の先生に「なぜ家庭科を学校教育で行うのか」について質問をしたところ、ちょっと古いですがという前置きとともに紹介してくれたのが岩波ジュニア新書のこの本です。

 まずは著者についてですが、大阪府立高校で英語の教員を13年されて、家庭科教員免許を取り直し、さらに改めて大阪府立高校の採用試験を受けなおして家庭科の教員になられた男性の本です。題名になった正しいパンツのたたみ方は教員間の「人生相談」で男性教員から発せられたものです。そんなところからそれぞれの家庭にそれぞれの文化があるということから始まっていきます。

 書かれている内容の多くは、家庭科の授業ネタです。高校家庭科で学ぶ内容をいくつかのエピソードを交えて紹介していくというものです。私自身も教員として家庭科を学ぶまでは、家庭科の内容は学校教育ではなく家庭教育が担うべきではないかと思っていました。しかし、確かに学校に通ってくる子どもたちの家庭環境やバックグランドはそれぞれです。家庭生活がしっかりとしていなければ学校生活も躓きがちなこともよくわかります。しかし、そんな子供達には本来過程で担うべき内容であろうとも、知識として実践としての経験がなければ、自らの生活を立て直すことができません。最初に出てくるパンツのたたみ方とて、正しさがあるのではなく一つの方法があるだけです。家庭生活に正しいを求めても実践できるわけでもありません。そんな中でベターな方法を選択できていける子どもたちを育てていく、そのきっかけが家庭科の中にはたくさんあります。

 主要科目と呼ばれる教科があります。しかし、実際にはそこに含まれない教科での学びが生活の基礎としてあってこそ、主要教科と呼ばれる内容に意味が深まるのだと思います。塾や受験だといって、掃除や洗濯、食事など成長の中で本来身に着けていく生活の中での学びを親が肩代わりすることで、偏差値は高くとも経験値の少ない実践力の伴わない子どもたち育っていきます。そして、肩代わりしてくれる人が居なくなったときに、苦労することになるのです。昭和の男性たちが女性に生活面を依存し、いざ一人になったときに何もできないのと同じようなことです。

 性別による役割意識や、少子化による労働環境の変化によって、全ての人が自らの生活を自分で支えることから始まり、血縁にとどまらない家族という関係性から社会をみることで、多様性を考えられるようにならなければこれからの時代に生きていくことは難しいです。今回の本を読みながら、ああこれは家庭科の授業ネタとして使えるなぁという視点だけではなく、大人が改めて生活振り返る意味においても学ぶことが多かったと感じる本だった。家庭科の中では自立ということがキーワードになることが多いが、「お弁当づくり」から自立を考える視点はとてもよい学びになった。

 学校で子どもたちに指導する教員にとって「なぜそれを学ぶのですか?」という生徒からの言葉に対して真摯に向き合っていくことがとても大切だと思う一方で、この本の中でも取り上げられているように「なぜ?」と聞く生徒の状況や躓きについての視点も必要だと感じた。

 さて、学べば学ぶほどに奥の深い家庭科を教えることができるのか、悩みが増える内容であったことも間違いない。

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