蛍の森 (石井光太)

ノンフィクション

 これまでに何冊かの石井光太さんの著書を読んできた。ノンフィクション作家だと言われて紹介されたし、読んできた本もノンフィクションだった。ところが今回は小説である。んん?と思いながら読み進める。プロローグから暴力的で、物語にしては重たいことばかり書くんだなぁと思いながら読み進めていく。

 物語の中で読んだことくらいでよく知らない病気ではあるが、癩病、いまはハンセン病と呼ばれる病気で感染力のあまり強くない癩菌による感染症である。しかし、原因や感染経路がわかるまでは隔離や迫害がなされてきた。コロナ感染の初期段階も同じようなことが起こっていたので未知のものへの対応は同じであろう。大きな違いはコロナ感染者は見てもわからないが、ハンセン病は外観に現れること。そして現在の情報社会であれば、その動向はすぐに伝わるが、それでも根強く偏見や差別があった。ハンセン病はそのレベルではない。国によって迫害されそして人権を奪われてきただけでなく、地域も親もその全ての人から迫害を受けてきたことが物語から痛いほど伝わる。

 さて、最後まで読んで、物語でしか書けない理由がわかる。国が過ちを認めても社会の差別は続き、長い差別は人の心のなかから消えることがなく、今もなお続いているノンフィクションなのだ。誰かが終わったと言っても当事者やその関係者にとって終わることはない。だからこそノンフィクションでは書けないし、フィクションであったとしても重い気持ちになる。

 行方不明の神隠しが、殺人事件となり、そして犯人があらわれ、真実が話されていく。そんな簡単なフィクションに、調べられた真実が絡み合うことで、フィクションはノンフィクションを通りながら一つの物語になっている。

 最後のエピローグを読んで、物語になっていく感じもするが、現実は今なお苦しむ人たちがいるのだと思うと…ページを閉じるのが重い。

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