暗幕のゲルニカ (原田マハ)

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 久しぶりに原田マハの本を手に取った。それも図書館でたまたま文庫本を見つけて、借りたのだ。美術に疎い私は、その時はまだゲルニカとは何かを知らなかった。そして、一つの小説として読み始めて、ゲルニカに引き付けられていく自分をすごく感じることができた。今では、実物をぜひ一度見てみたいと思うほどだ。そして、それはスペインマドリードにある国立ソフィア王妃芸術センターに行かなければ実物を見ることはできない。

 原田マハの小説でありフィクションなのだが、史実を織り交ぜられたこの小説は読んでいる人を歴史の世界に一気に送り込む。しかも、ピカソがゲルニカを書いた時代と、アメリカの9・11テロの時代をつなぎ合わせて、行ったり来たりとするのだ。時代場面が変わると、片方の物語はつまらないなんてことも他の物語ではあるのだが、どちらも先が気になって仕方ない。そして、ゲルニカの存在意義を深く深く考えさせられる。さすが、原田マハである。

 実際に暗幕のゲルニカは、国連の会議場で起こっている。その一つのエピソードがここまでの物語に広がるわけなのだから、史実なのか?と何度も何度も思いそうになりながら、物語を読み進めることになる。そして、この小説を読んでいるときに、たまたまテレビをつけてチャンネルを変えているとNHKで「ゲルニカ」の特集が放映されていた。MOMAに展示されていたゲルニカに落書きをした人が取り上げられ、なぜMOMAにゲルニカがあるのかが語られたその放送を見ながら、普段ならそのままチャンネルを変えるところを、こうやって運命のように番組を見ている不思議を感じたのだ。

 物語の中でのクライマックスは、MOMAにゲルニカが帰ってくるのか?ということであるが、実際にゲルニカは国立ソフィア王妃芸術センターから動かされたことはないようだ。一つの芸術作品が、あらたな物語という芸術を生み出すわけだから、普段は美術に興味のない私もすっかりゲルニカには興味津々である。そんな風に思わせてくれた今回の小説は誰かに勧めたくて仕方ない。ぜひ、読んでみてほしい。特に美術品に興味のない人に…きっと、私と同じような不思議な体験をすることになると思うからである。ぜひ、スペインに、それが叶わぬなら、国連でタペストリーでも見に行きたい。(国連には若いころに行ったことがあるのだが…記憶にはなく。残念)

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