自律と尊重を育む学校(工藤勇一編著)

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もう何冊目かの元麹町中学校長、工藤勇一さんの本である。今回は、実際に学校改革を行った担当の先生方も著者として加わり、具体的な学校行事や学校運営の方法に触れながら書かれた本である。まさに学校を変えていこうと思った人たちが何を大切にして、どこを注意したのかというHow to本のような書き方がなされていた。

読んでいてい感じることは、一貫した目標があるということだ。学校という場所ではこの一貫した目標が簡単にぶれる。子供たちのためという曖昧な言葉によって、本来達成しようとした目的がぶれていけば結果的には玉虫色の理念となってしまう。千代田区立麹町中の学校改革がうまくいったのは、最上位目標に戻り、最上位目標の達成のために学校を運営するという、この原理原則を常に考えながら行われたことが大きな要因であったんだということを読む中で感じた。一つ一つの学校行事が、単発の目的ではなく、最上位目標を考えられて行われ、さらにそれができないような行事は必要なしとしてやめる勇気もある。一つ一つの行事に血と魂が通うことで、行事を通して子供も親も本当に大切なことを実感していくのだと思う。

学校行事だけではなく、校務分掌の在り方や、PTAとのかかわり方についても、一つ一つが明確な目標とともに、マニュアルが作成され、それが次につなげられていくことで、個人ではなく組織として運営ができるような工夫がされている。そして、学級担任制をやめて学年チームでの生徒把握や、面談の行い方、行事の進め方に至るまで、信念が貫かれていることで、先生も、保護者も、子供も、同じ目標を持つことができるような工夫がされている。実際の学校ではこれが難しい。学校で行われていることのほとんどは、昨年同様にとか、子供のためにとか、保護者が望んでいるからとか、具体性のない言葉遊びのような理由で繰り返し行われ、大人にとっても子供にとっても不毛な時間を過ごすことが多いと感じるが、一つ一つが明確な目標を持ち、それを意識しながら進められていけば、内容も意味も大きく変わるのだということを感じた。こんなことが良くできたと思う一方で、校長一人のリーダーシップではなく組織の中にしっかりとそれを具現化できる先生方の存在があってこそ実現されたのだということが分かった。

どこかで学校を変えていこうと思った人があれば、この本がとても有効活用されるであろうと確信する。それは、その目指すところではなく、目指すものが違ったとしても、その目指すものをどのように具現化していくかということを教えてくれる本だからである。

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