青空と逃げる(辻村深月)

小説
9784122070899 青空と逃げる 0 辻村深月 著 中公文庫 2021/7/21

先日、「傲慢と善良」という辻村作品を読んだことを紹介した。だからといって今回の本を選んだのではない。でも、傲慢と善良に出てきた登場人物がここにもあらわれるのだ。繋がりがある作品でもないのに、こういうことはよくあるのだろうか?そう思いながら読み進めることとなった。

 さて、力という小学生とその母親である早苗が高知にいるところから物語は始まる。どうやら何かから逃げているようだ。その逃げている具体的な内容はわからないままに物語は進んでいく。この親子が追われながら逃げていく中で、成長していく物語である。高知から家島という小さな島、そして別府へと生活場所を移していく。その場所ごとに物語があり、このまま二人で落ち着いて生活をしていけばよいのに、と思うがやはりそうはさせてもらえない。一つのところに留まることが幸せだと思いがちだが、そこを追われて次のところへ行くことで新しい出会いがある。なんとも人生は見方一つで大きく変わる。

 環境が変われば人も変わっていく。心の支えがあれば、チャレンジできる。そうやって見知らぬ土地で自分と向き合うというのは、まさに旅の醍醐味である。この物語が楽しい旅のお話であればよいが、そうでもない。

 その深刻さが沸き上がるのは、この度が始まった理由が明かされるところからである。子どもを信じたい母親がその気持ちを揺さぶられて、居ても立っても居られずに始まった旅。そして、その原因は父親である。ワイドショーなんかを昼につけておけば、そんなプライベートなことをいつまでも追い掛け回さなくてもいいじゃないかと思うことがあるが、まさに今回も物語も役者である父親のスキャンダルが問題で逃避行をしているのである。

 ここで、「傲慢と善良」では、この親子が仙台で登場している。家島でのエピソードから箱根へ移動して行くが、旅はまだ仙台に向かうのだろう、どうやって仙台にたどり着くのだろうと予備知識が邪魔をする。仙台の写真屋さんに実際についた時はなんとなくホッとしてしまうが、逆にそこに登場する「傲慢と善良」の登場人物はあっさりと触れられる程度である。小説間に繋がりを持たさせるというのも同じ作家の作品を読む一つの楽しさなんだなぁと感じることができた。

 「青空と逃げる」という題名で、実際に逃げていく物語でありながら、人は成長し、逃げずに立ち向かうシーンが増えていく。こうやってピンチに人は成長するのだと感じることができる。読み終えて、結局、どうなるのさ?と目的も成果もあいまいでありながら、過程の中に大きな意味があるのだと思わせてくれる物語であった。

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